犬
胆嚢摘出手術
胆嚢摘出手術をしたトイプードル
他院からの転院で胆嚢摘出術を行なった13歳のトイプードルさん。
胆泥症の治療を他院でしていましたが
お薬を飲むのが苦手かつ、治療用の低脂肪食が嫌いなため
予防的胆嚢切除のために来院されました。
胆嚢は肝臓の内側右葉と方形葉の間(胆嚢窩)にすっぽりと挟まっている袋です。
お腹の右上、一番下の肋骨の真下あたりに存在します。
下図の緑の袋が胆嚢です。
胆嚢の仕事は肝臓で作られた胆汁を貯蔵・濃縮し、食事などのタイミングで
十二指腸内に分泌する事で脂肪の消化・吸収を補助しています。
まずは超音波検査で今の胆嚢の様子を確認しました。
胆嚢の中は正常だと黒く抜けて見えるのですが
この子の胆嚢内には泥状のものが貯留し
さらに泥も少し硬そうな状況でした。
しかし、胆嚢壁は厚くなっておらず、胆嚢破裂の様子も見られませんでした。
飼い主さんと改めて手術のリスクや放っておくことのリスクなどを説明し、
ご理解いただき後日手術となりました。
画像中央に位置するのが胆嚢。肝臓に挟まれて存在。
この子の胆嚢は破裂したり激しい炎症がなかったので周囲組織との
癒着もほぼ無かったので手術はスムーズに終わりました。
切除された胆嚢
内部には黄色い正常な胆汁と共に黒い砂粒(胆砂)が大量に詰まっている。
経過はとても良好で胆汁の漏れもなく術後2日目に退院となりました。
その後も大きな問題なく術後7日目に抜糸して終了となりました。
術後に起こりやすい膵炎や胆汁の漏れなどが無く
無事に終わって良かったです。
後は食べられる低脂肪食を探して食事管理をしていきます。
胆泥症は中齢以降でよく見つかる病気です。
食事や投薬で管理していけば手術が必要になる例はあまりありませんが
泥が硬くなってきたり、胆嚢破裂しそうな場合には手術も検討すると良いと思います。
何か胆泥症で不安なことがありましたらご相談ください。
胆泥について
胆汁は肝臓で作られて胆管(肝内胆管)を通り肝臓を出て胆嚢内に貯蔵・濃縮され
食事の際に胆嚢が収縮する事で胆嚢管・肝外胆管・総胆管を介して十二指腸内に分泌されます。
胆汁は主に胆汁酸とビリルビンなどで構成され
胆汁酸はコレステロールなどから生成されて脂肪の消化・吸収を助けます。
胆汁酸は消化管で再度脂質成分と共に腸から吸収されて再利用されます(腸肝循環)。
ビリルビンは赤血球を処理した後に出るゴミであり、胆汁中に排出され
腸内細菌によってステルコビリンに代謝・変換されて便の茶色成分となって排出されます。
しかしビリルビンや胆汁酸が胆嚢内でどういうわけか固まり、
砂状 (胆砂)や泥状に溜まり
うまく排出されないようになってしまう事があり、
それを胆泥症と呼びます。
胆泥がさらに固くなると胆石になります。
胆石は胆嚢を傷つけたり、胆道に詰まって激しい胆嚢炎・胆管炎・肝炎や黄疸を起こします。
胆汁がどうして胆泥に変化するのか、詳細は不明ですが
脂肪分の多い食事やコレステロール代謝の変化、胆嚢の胆汁排出・濃縮機能障害などが考えられています。
人では胆嚢排泄性の薬剤の影響も確認されています。
犬では多くは無害・無症状で健診などの
腹部超音波検査で偶然見つかる事があります。
血液検査でALPやGGTの増加から胆泥症を疑われる場合もあります。
外科的切除後に食欲が増す個体も多いことから
実は軽度の腹痛を有しているのかもしれません。
どんどん胆泥が溜まっていくと
胆嚢粘液嚢腫や大きな胆石になったり、
胆汁排出圧の増加から疝痛・腹痛を起こしたり
感染・炎症が発生して胆嚢炎・胆管炎を起こしたり、
胆嚢破裂から腹膜炎を起こし腹部痛や嘔吐、黄疸、ショック、敗血症などから
最悪亡くなるなど様々なリスクを伴う疾患です。
胆泥症の治療はウルソデオキシコール酸(UDCA)などの利胆剤や
トレピブトンなどの排胆剤を内服する事で胆泥の排出を促す、
低脂肪食に変更して胆汁生成に必要なコレステロール摂取量を減らす、
肥満にさせないまたはダイエットをする、そして
夜間や昼間の空腹時間を短くして胆汁排泄を促すなどがあります。
投薬や食事管理をしても胆泥が増加してきたり、
胆嚢炎や胆嚢破裂が認められた場合には
外科的に胆嚢を切除することを検討します。
手術はお腹を開けて胆嚢切除する場合と腹腔鏡で行う場合があります。
胆嚢破裂などは緊急手術になることも多く、
術後の腹膜炎や膵炎などの周術期管理に注意が必要に成ります。
無症状の胆嚢粘液嚢腫犬に対する予防的胆嚢摘出手術の適応タイミングの明確な基準は存在しないので、
手術のメリットやデメリットを飼い主と執刀医で相談して判断する必要があります。
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