Animal case

猫の膀胱結石摘出術

猫の膀胱結石摘出術

おしっこに何度も行くけどちょっとしか出ず、出た尿が赤い、
血が混じる(血尿)とのことで来院された2歳の猫さん。

若い猫が血尿をする場合、
使っているトイレが気に入らない・怖いことがあったなど
ストレスによる特発性膀胱炎、
結石や感染などによる膀胱・尿道などの損傷、
またはその他が原因となる事が多いです。

 

それらを確認するためには問診でトイレや飼育環境に関することを聴取し、
必要に応じて尿検査やレントゲン・超音波検査などの画像検査を行います。
尿検査では細い針での膀胱穿刺による採尿が最も正確に尿の状態を確認できるので
エコー検査で尿の溜まり具合の確認をしつつ
腎臓・尿管・膀胱・尿道も念入りに検査をします。

 

この猫さんの場合ではエコー検査で
膀胱の中に固そうな物が複数個認められ
膀胱の中をゴロゴロと転がっていたので
膀胱結石が原因による血尿と分かりました。

図1: 超音波検査に移る結石(AとAの間の白い領域)

そこでレントゲンも撮影してみると膀胱の中に
X線透過性の低い(白く写る)異物が複数個認められました。
尿検査では結晶が認められませんでしたが
結石にまでなってしまっている場合は結晶が認められ無い事がよくあります。
今回の血尿の原因は膀胱結石による
膀胱・尿道損傷と診断しました。

図2: レントゲンで膀胱の中に白い粒が複数個認められる

 

猫の尿路結石でよく認められるものは
『ストラバイト結石』と『シュウ酸カルシウム結石』です。
結石生成の原因ははっきり分かっていませんが
食事が合っていない、体質、フード中の水分不足や
尿の膀胱内滞在時間が長いことなどが考えられています。

 

ストラバイト結晶は尿の pH (酸アルカリ度)が7以上になると発生しやすくなります。
食後は尿のpHが上昇するので食後に尿検査をすると少量の結晶が見つかる場合があります。
逆にpHを5~6程度まで下げると溶解しますが、
結晶が固まり大きな結石になってしまうと溶かせずに手術が必要になることもあります。

シュウ酸カルシウム結晶は尿のpHは様々で結晶を溶かすことはできません。
お水をたくさん飲ませておしっこをたくさんさせて膀胱内を頻繁に洗い流すことが
治療においても再発予防においても重要になります。
どちらの結晶も目に見えるくらいの結石になってしまった場合は
膀胱を傷つけて出血させたり、特にオスでは
尿道に詰まって閉塞させることがあるので
早期に外科的に摘出することが理想的です。
今回の猫さんでは血液検査で特発性高カルシウム血症も認められたため
難溶解性のシュウ酸カルシウム結石の可能性が高いと判断して
手術で摘出することとしました。

 

膀胱結石摘出術は全身麻酔をかけて開腹手術で行います。
施設によっては腹腔鏡を用いて結石除去を行うこともありますが
当院では対応できておりません。
メスで下腹部を切開し、膀胱を体の外に露出させてから膀胱を切開します。

図3: 露出させた膀胱

この時、手術直前にレントゲンを撮っておいて石の数を確認しておきます。
術直前のレントゲンで結石がすでに排出されていて手術回避になったケースもあるので
大切な作業です。

膀胱の中の石を全て摘出して膀胱を縫合します。

図4: 縫合を終えた膀胱

膀胱内に生理食塩水を注入して縫合部から漏れがないことを確認し、
お腹の傷を縫い閉じて終了です。


図6: 摘出した結石。

術後数日は入院管理とし、血尿が止まったら帰宅します。
以前は膀胱内にカテーテルを設置していましたが逆に異物として膀胱を荒らすので
今は設置しないことが多いです。
今回は術後すぐにきれいなおしっこが出始め、ご飯も食べ、調子が良いので
術後3日目に退院となりました。
退院後も元気で術後7日目に抜糸を行い治療は終了です。
早期治療のおかげで早くに良くなって良かったです。

あとは水をたくさん摂取させて
尿路系のご飯やサプリを飲んでもらいながら
再発の予防をします。

定期的に尿検査を行い、再発の有無を確認します。
再発予防においてトイレの環境整備もとても大切です。
トイレの広さや形状、個数、設置場所、砂の種類など猫が快適にトイレをできるように工夫します。
広さは体長の1.5倍以上、個数は猫の数+1個が理想です。
結石を放っておくと膀胱炎が慢性化し、
膀胱組織が繊維化を起こして傷の治りを悪くしたり
膀胱無力症(アトニー)に発展するなど
難治性の膀胱障害に繋がってしまう恐れがあります。


膀胱結石と診断された場合はなるべく早くに治療を開始しましょう。

 

補足・まとめ

・ネコはそれぞれトイレへのこだわりがあり、
広く清潔で鉱物系の砂を好むことが多い(好みは猫による)。

・猫はきれい好きであり、トイレが汚いと我慢してしまう。
 我慢することで停留時間が伸びて結石生成や
感染性膀胱炎の発生率が上昇するのでトイレは常に清潔にする。

・猫が頻尿になったらすぐに病院へ連れて行く

・ストラバイト結晶は溶かすことができるがシュウ酸カルシウム結晶は解けない。

・膀胱結石は膀胱炎が慢性化する前に治療する。

・水を普段から意識的に摂取させておしっこの回数を増やすようにする

・治療はお好みの尿路系のフードやサプリメントなどを併用しながらおしっこを我慢させないようにする。

・定期的に尿検査を行い、トイレ環境やフード、サプリメントを調整する。