Animal case

皮膚が広範囲に欠損した猫さんの治療

【皮膚が広範囲に欠損した猫さんの治療】

 

千葉県の牧場で保護された野良猫さん。

保護主さんが当院の近くにお住まいで、首から胸にかけて事故かケンカで大きな怪我をしているとのことで牧場から保護した足でそのまま来院されました。

去勢していない雄の成猫ですがとても人懐っこく、ゴロゴロ喉を鳴らしています。

保護されたてなので体は汚れていてノミだらけ。

結膜炎やや耳の汚れもたくさん。

また、肩甲部にはマダニが現在進行形で吸血中です。


写真1, 2: 保護時の様子。目やにが多量で全体的に汚れているが表情は優しい。左胸に大きな皮膚の欠損がある。
マダニが吸血している

写真3: 首から胸にかけて存在する大きな皮膚の欠損。皮下の筋肉が見えている。

 

保護元の牧場関係者の話では2週間くらい前からこの大きな怪我をしていたそうです。

2週間前からこの状態とのことなので焦って手術しなくても大丈夫そうなので

まずはノミ駆除薬を肩甲部に塗布して一晩かけてノミ・マダニを駆除します。

ノミ媒介性の寄生虫やそれ以外のお腹の虫(回虫など)も心配ですが

近年はオールインワンタイプの総合駆虫薬が全てカバーしてくれるのでそれを使用します。

血液検査では大量のノミに血を吸われすぎたため貧血がありました。

そして未去勢の雄猫のためケンカが原因の猫エイズに感染していることが分かりましたが

リンパ節の腫れや口内炎などはないので発症はしていない様でした。

一晩経つとノミ・マダニが全滅していたので改めて治療をします。

 

毛刈りをしてみるとかなり広範囲の皮膚の欠損があり、さらに広く壊死・炎症があります。

ケンカで怪我をしたのか、事故に遭ってしまったのか、両方なのかは猫に聞いてみないと分かりませんが、洗浄だけでは治癒困難と判断し、手術で治すことにしました。


写真4:広範囲の皮膚の欠損。全身に細かな傷も認められる。

 

まず傷をよく洗浄し、壊死した部位を削ったり切除して

新しい傷にします(デブリードメント)。

壊死した傷は組織が死んでいるので削ったり切除しても出血ません。

このまま縫合しても創縁は瘢痕化しており再生反応が起こらずに傷はくっつきません。

なので、血が出るところまで壊死部を削り、皮膚も同様に拡大切除を行います。

血が出てきたら拡大切除は完了。縫合して治癒を待ちます。

麻酔で寝ている間に耳掃除も行い、入院中に目の治療も行います。


写真5: 洗浄し、壊死部を切除する。


写真6: 出血が認められるまで広く傷を作り直して縫合。そのため、広い傷になる。

 

広範囲の傷を縫合すると傷と皮膚にテンションがかかりくっつきが悪かったり

事故やケンカ傷の場合、隠れていた壊死・感染・炎症が術後に広がってきて

傷が癒合しないことがあるため数日様子を見ます。

数日すると、傷の首側の方は良好に癒合していますが

胸側の方の一部の傷に炎症が広がり、癒合不全になっていました。

再度胸側の傷を洗浄・デブリ・縫合して数日様子を見たところ今度はしっかり癒合ました。


写真7, 8: 傷の下側が離開して癒合していない。改めて再デブリードを施す。

写真9, 10: 手術完了。右: 後日の去勢手術時の首の傷の様子。今度はしっかり癒合している。

 

後日、去勢も行いました。

体もすっかり綺麗になり、ご飯もモリモリ食べて貧血も改善していました。

無事に治って良かったです。

 

今後は保護主さんの元で暮らします。

可愛い名前も付けてもらって良かったね。

あとはエイズが発症していないかを定期的に診ていきます。

これからはエイズキャリアーなので外出は禁止となりますが

室内で幸せな猫生を過ごしてもらいたいです。


写真11,12: 傷の様子。左腕の動きの制限もなく元気に過ごせている。顔もとても綺麗になった。

 

今回は人懐っこい野良猫だったので術後管理もしやすく回復も早くなりました。

人慣れしていない猫の場合、術後に猫パンチを繰り出して傷が離開したり、入院ストレスで創傷治癒が遅れたりします。

また、千葉県の野良猫にはマダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) ウィルスが確認されており、感染猫に噛まれて

ヒトが感染・発症・死亡する事例もあるので、人慣れしていない野良猫はとても危険です。

杉並区獣医師会が行った調査「杉並区 SFTSサーベイ 2021」では杉並区で保護された野良猫・地域猫では SFTS ウィルス保有猫は確認されていませんが保護猫活動をする際は噛まれたり引っ掻かれたりしないよう十分な注意をお願いいたします。

※杉並区 SFTSサーベイ 2021。当院を含む杉並区獣医師会所属 19 病院と国立感染症研究所が調査に参加し、杉並で生活する外猫または「飼い主のいない猫事業」で手術された猫 107 頭のELISAによる血中IgMおよびIgG抗体を調査