犬
犬の避妊手術:体重1.0kgのトイプードル
小さなトイプードルの避妊手術のご相談をいただきました。
体重 1.okg ととても小さいですが生後 12 か月齢なので
将来的な病気の予防の観点からも初回発情前でちょうど良い時期かと思われます。
当院では 12 時 〜 16 時の間で手術をしています。
犬の女の子の避妊手術では卵巣子宮切除を行なっており
術後1泊の入院を推奨しています。
そのため、午前中に来院できて翌日お迎えに来てもらえる日で手術日程を調整します。
また、当院では術前検査を手術前 7 日以内を推奨していますので
先に手術日程を決めてから麻酔前検査の日を調整しています。
手術が 7 日以内に行えるのであればその日のうちに術前検査を行うことも可能です。

小さなトイプードルの女の子
術前検査
まずはしっかりと全身状態を確認し、麻酔が安全にかけられるのかを判断していきます。
身体検査、触診・視診・聴診 (肺・心音の検査)、血液検査やレントゲン検査などを行います。
それらのデータから肝臓、腎臓、肺、心臓や門脈血管などの
先天性奇形の有無や気管チューブの太さなどを確認します。
もしこの段階で異常が発見された場合には手術の延期と更なる精査を検討します。
幸いにもこの子には明らかな異常が見つからなかったので、後日改めて手術としました。
(それでも 100% 安全とは言えないのが麻酔の怖いところです…)
手術の流れ
手術当日は 12 時間程度の絶食をしてもらうので基本的に朝ごはんを抜いてもらいます。
(飼い主さん的にはここが 1 番の難所かもしれません…)
手術前に細い血管に細〜いカテーテルを挿入し
点滴・鎮静剤・麻酔薬や緊急薬などを血管から投与できるようにします。
麻酔開始前に酸素を嗅がせて酸素とくっついた赤血球を増やします。
赤血球を酸素化しておくことで麻酔導入時に呼吸が止まってしまった際の時間稼ぎとなります。
酸素化ができたらゆっくりと鎮静剤を投与していきます。
反応が鈍くなってきたところで注射麻酔薬を、こちらも反応を見ながらゆっくり投与していきます。
体重が小さいので0.1mLでも投与量が増えたら効き過ぎてしまう可能性があるので
慎重に確認しながらゆっくり投与していきます。
眼瞼反射や顎の筋肉の抵抗が無くなったら細い気管チューブを気管に挿入し、呼吸を確保します。
気道確保が確実に成功していることを聴診やモニターの波形から確認し、仰向けにして四肢を固定して
心電図や血圧計、EtCO2 (呼気終末二酸化炭素分圧) やSpO2 (経皮的動脈血酸素飽和度)、
麻酔ガス濃度、体温などの生体モニタリングを開始します。
麻酔をガス麻酔に切り替え、痛みは感じないけど自発呼吸が残る麻酔の深さに調整します。
お腹の毛をバリカンできれいに刈って
切開予定部に局所麻酔をして洗浄・消毒して準備完了です。
モニタリングの最中に異常が出た場合はすぐにその都度状況を判断して対応しますが
麻酔の続行が危険と判断さ荒れた場合にはすぐに麻酔・手術を中止し、蘇生措置に入ります。
手術開始
メスでお臍の辺りを人差し指幅程度切開し、開腹していきます。
(最終的な傷の大きさはお腹の脂肪の付き方や子宮の柔らかさで変わってきます。
小さい傷の方が好ましいですがそれ以上に
安全に手術を行える長さで切開することの方が重要です)

邪魔な脂肪を避けて、腸や脾臓など他の臓器を損傷しないように注意しながら
子宮釣り出し鈎で子宮を引っ掛けてお腹の外に引っ張り出します。
卵巣の位置を確認して腎臓方面に伸びる卵巣堤索を焼烙・切断します。

堤索を切断すると卵巣・子宮の可動性が良くなって手術がしやすくなります。
卵巣の静脈と動脈を焼烙切除し、子宮の根元が見えるところまで周囲の間膜を処理していきます。
逆側の卵巣と子宮も同じ処理をして、子宮の根元で子宮の血管を熱でシーリング、子宮を切断します。
この際、あまり根本にこだわってしまうと尿管を損傷してしまうことがあるので、根本を攻めすぎないように注意します。
シーリング装置を使うとお腹の中に血管クリップや糸、ワイヤーなど異物が残りません。

しっかりと卵巣が摘出されていること、子宮断端部からの出血がないことを確認してお腹を縫い閉じていきます。
筋肉と皮下組織は吸収糸で縫合し、皮膚は非吸収糸で閉創します。
吸収糸はだいたい半年程度で溶けて無くなりますので体に異物が残りません。

麻酔から覚醒して呼吸が安定したら気管チューブを抜いて、十分に意識が戻ったら終了です。
入院室に戻って点滴をしながらゆっくりしてもらいます。
念の為1泊入院して翌日に帰ります。
手術当日は24時ごろにも様子を確認し、食欲や活力などをチェックしています。
今回は傷も小さく、術後もとても元気でした。
退院後はエリザベスカラーまたは術後服を着て過ごしてもらいます。
当院では術後 7 ~ 10 日程度で抜糸しています。
退院後もとても元気で、傷もきれいにくっついており、治療終了となりました。
体が小さいので麻酔を諦めている方もいるかもしれませんが、
しっかり準備をすれば手術をすることは可能です。
将来的な乳腺腫瘍や卵巣子宮疾患の予防のためにも
避妊手術は積極的に考えてもらえると幸いです。
獣医師 山崎